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『おにいさまへ…』 [感想]

休みでヒマだったのと、気が付いたらdコインが溜まりに溜まりまくっていたのをいいことに、一気買いして一気に読んでしまったものがあります。

池田理代子先生の『おにいさまへ…』です。

おにいさまへ…(1)

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おにいさまへ…(2)

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おにいさまへ…(3)

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時期的には『ベルサイユのばら』の次に連載された作品で、日本の名門女子高校が舞台。池田先生の絵柄は後年どんどんハードに劇画系に寄っていき、正直オスカルあたりもゴ○ラ女(笑)っぽくなってしまって、後年の絵柄があまり好きでない、というファンも少なくないのですが、この『おにいさまへ…』の頃はまだ柔らかくてきらびやかな「ザ・少女漫画」な作風です。この頃の池田先生の画面構成力は圧巻で目を見張るものがあります。眼福眼福。

《以下ネタバレ含みます》

青蘭学園に入学した主人公御苑生奈々子はお菓子作りが趣味の平凡な少女。受験塾の講師だった大学生辺見武彦に「おにいさまになってほしい」とお願いして文通を始めており、これがタイトルの由来。
名門女子高校である青蘭学園には「ソロリティ」という上流特権階級の子女だけが入会できる社交クラブが存在しており、ソロリティメンバーに選ばれることは全生徒の関心ごと。一方まったくその気がなかったにも関わらず奈々子はそのメンバーに選ばれてしまうのだった……、というのが導入部のあらすじ。

個性的な三人の女生徒が主軸となり、この三人をめぐる激情の中で揺れ動き少しずつ大人になっていく奈々子が「おにいさま」への手紙という形で語り部となって物語は進みます。
ソロリティの会長であり、学園の女王として君臨する令嬢、「宮さま」一の宮蕗子。
薬漬けの自堕落な日々を送り、危うげな儚さを漂わせる男装の麗人、「サン・ジュストさま」朝霞れい。
不治の病の影に怯えながらも凛とした強さに満ちたクラスメイト、「薫の君」折原薫。
なかでも、主人公の奈々子そっちのけの「濃い」ドラマを見せるのが宮さまとサン・ジュスト。本宅の令嬢と愛人の私生児、という境遇の姉妹である二人は過去に心中未遂をしでかした関係なのですが、プライドに生きる誇り高き女王である宮さま、宮さまを愛しつつも憎み生の揺らぎを隠さないサン・ジュストの鮮烈な愛憎が強烈です。ベルばらのすぐ後だからこの頃まだ池田先生は20代だったんじゃないかと思われますが、その若さでこんな鮮烈な物語を紡いでいたのだからすさまじい。「栴檀は双葉より芳し」とはこのことです。

私が好きなのは、奈々子のクラスメイトのマリ子さんこと信夫マリ子。男嫌いで、薫の君を慕い奈々子への独占欲を隠そうとしない、今でいうところのやや「ヤンデレ」気味な美少女です。でもこのマリ子さんの寂しさ、一途さ、愛情深さの描き方がまたこれ、池田節全開で胸に刺さるのですよ。彼女は父親が官能作家(マリ子さんはじめ女生徒たちは「エロ小説家」という見も蓋もない言い方をしているのですが、少女特有の潔癖さみたいなものがちょっと感じられるのが巧いですね)であり、愛人が同居している、という環境で育ったが為、父親に対して複雑な感情を抱いているのですが、そんなマリ子さんが、まだ自分が生まれる前の純粋な文学青年だった頃の父親の作品に触れ、「わたしのおとうさんはこんなきれいな小説を書く人だったの」と涙するシーンがあります。ほんの短いシーンなのですが、この場面が本当に美しく、素直に感動できるシーンです。

ところでこの『おにいさまへ…』という作品について、所謂「百合」と分類している人がいるようですが、それは大いなる間違いです、と声を大にして言いたい。なかには勝手に百合に分類しておいて「みんな男とくっつくのが不満」と勝手に怒っている不埒で読みの浅い輩もいるようです。
敢えていうならたぶんこれは分類的には「エス」になるのだと思われます。エスというのはなんつーかこう、説明が難しいところですが、思春期の少女が大人の男女の恋愛にステップアップする前の、疑似恋愛的な下級生と上級生との慕いあい、みたいな関係を描いたものですね。
でも少女は少女のままではいられないのです。『おにいさまへ…』ではそれがソロリティの崩壊という形で描かれます。マリ子さんには恋人ができて、薫の君は愛する人と生を生きる途を選びます。ソロリティの解散は、権威と偶像に憧れるのではなく、自分で考え自分の足で立って歩きなさい、という少女たちへのエールでもあります。



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